日本の医療における栄養管理の第一人者として
数多くの経験と実績を積み重ねてこられた足立香代子氏。
毎日、臨床の現場に立ち続けながら、数多くの講演や勉強会を行うなど、
精力的な活動を続けています。
「勉強には尽きるところがない」という氏が語る情熱と継続の源とは…
明日の医療を切り拓くヒントにしてみませんか。

百夜百人Story02

学び続ける理由

私は現場が大好き、面白くて仕方がありません。毎日、臨床の現場に出ていますが、いつもそこには、気づきや工夫、改善のヒントなどが満ち溢れています。まだまだ吸収したり、勉強したりしなければならないことがいっぱいある。自分の知識やスキルをもっともっと高め、私の職務である栄養管理の可能性や領域を広げていきたいと思っています。それはもちろん、栄養管理の大切さや必要性を医療現場の皆さんに理解してもらいたいという願いもありますが、それ以上に栄養管理が有効であること、患者に適切な栄養管理を施すことで、医師やコメディカルがそれぞれの専門分野に注力でき、それが患者の利益につながるという確信があるからです。

そのために、私は臨床の現場で「学び続けている」わけですが、そこで、心がけているのは「わかったふりをしない」ということ。現場で出会った初めての知識やスキル、疑問など、細かいところから全体まで、自分がわからないと感じたら、それを徹底的に調べ、不明点は周りに聞き、常に掘り下げながら理解の深さを増していくようにしています。日々の業務に追われて「できている」と錯覚する、一回の講義を聞いただけで「わかっている」と思い込む…そんな勘違いが怖いのです。

人間は本来、愚かなもの。自分の間違いや思い込みになかなか気づくことはできません。それを修正し、向上するには、「自分はまだここまでしかできていない」という謙虚な姿勢をもつこと、そして自分の力で理解できないことは「わかりません」といって、他人に聞ける勇気を持つことが大切なのです。

足立香代子

悔しさの涙からの出発

といっても、私も若いときは「突っ張って」いて、なかなか自分から「わからない」と手を挙げられませんでしたね(笑)。ただ、あるときに自分のそれまでを変える大きな“事件”が起こった。駆け出しの栄養士のころですが、ナースステーションに検食を持っていった時に、医師と看護師が専門用語で冗談を言い合っていたのです。今振り返ると「先生、認知症のお薬、飲みますか?」みたいなことなのですが。その場に居合わせた全員が大笑いする中、私は「なぜおかしいの」と聞けず、意味も分からないまま、わかったふりをして笑ってしまった。私はそのときの自分の態度が許せず、帰ってから悔しさのあまり涙しました。しかし、これがきっかけとなり、猛烈に勉強を始めた。2年間近く、病院に泊り込んで患者のカルテを手書きで写しては、内容を勉強し、わからないところは自分で調べてから、医師に質問したのです。

ですから、それが「今でも続いている」というだけなのかもしれませんが(笑)、継続的な勉強の大切さはいつも感じていますし、実際、それが仕事での“やりがい”につながっていくと考えています。やりがいというと少し大げさかもしれませんが、それは例えばたった一例でもいいから「患者さんが良くなった」という経験をすることです。自分が勉強して身に付けた知識やスキルで、「顔色がよくなった」「食べられるようになった」「元気が出てきた」など、少しでも患者さんが改善する。目の前の患者さんが笑顔になる。医療人として「やりがい」を感じる瞬間でしょうし、おのずと自信も湧いてきます。そうした経験を積み重ねることで、自分のモチベーションを維持し、自らを向上させていくことができるのだと思います。

活きた知識を身につける

ただし、ここで大切なのは、その結果を導いた原因と理由をしっかりと把握しておくということです。“偶然”や“たまたま”ではない、「なぜそうなったのか」「どんな理由があったのか」を、自分の中で理解し整理をする。なぜなら、それがやがて血となり肉となり、活きた知識として結実し、自らを成長させる原動力となるからです。医療人はそうした経験を重ねることでだんだんと次のステージにステップアップできるのではないでしょうか。つまり、それは、患者への還元だけでなく、医師や他のコメディカルに対して、自らの立場で責任を持った発言ができるようになるということ。今までは受け入れられなかった自分の意見に耳を傾けてくれる、同じ土俵で議論ができる、こうなると、俄然、仕事への意欲ややりがいが高まってくるのは、私だけではないと思います。

足立香代子

チームは仲良しの集まりではない。

ここまで、話してきて感じるのは、やはり、私たち医療人は「命を預かっている」職種であるということです。「万が一」があってはならない。そのために、日々、自らを切磋琢磨するしかない。チーム医療に関しても、「自分がどれだけの技量をもっているのか」を知った上で参加することが大切。技量がない人が集まってもそれは単なる仲良しの集まり。医療に効率性と深さを生み出す「チーム」にはなりえません。自分にスキルがあれば他の人のスキルも見えてくるもの。自分の中で他人が評価でき、「さすが薬剤師さん、なるほど看護師さん」ということにつながる。そうした関係があって初めて、情報の共有や連携といったチーム医療の利点が活きてくるのです。つまり、それは誰かに自分を認めてもらうということなのですが。私もこれまで、いろいろな方に認めて頂き、ここまでやってくることができました。今は、その逆の立場から、多くの若い芽を外に出していく、そんな役割を担わなければとあらためて感じています。

掲載記事の内容は2010年2月の取材時のものです。

足立香代子

足 立 香 代 子

せんぽ高輪病院
68年 中京短期大学 家政科食物栄養専攻卒業
85年 東京船員保険病院 栄養管理室長
(現、せんぽ東京高輪病院)
理事:日本静脈経腸栄養学会 / 日本臨床栄養学会 / 日本褥瘡学会 / 日本褥瘡学会関東甲信越支部 / NPO法人PEGドクターズネットワーク / NPO法人創傷治癒センター
評議員:日本臨床栄養協会 / 日本栄養改善学会

足立香代子先生とはツ・ナ・ガ・ルの取材でじっくりとお話を聴かせていただきました。
せんぽ東京高輪病院(現在、JCHO東京高輪病院)地下の栄養士室を訪室時、
その日の患者データ(分厚い冊子)を超高速で丹念にチェックしながらも、
問題のある患者データに瞬時に指を止め、部下に歯切れ良い指示を的確に出されていました。
まさに神業! 

より良き医療、患者さんへの熱情と長年の鍛錬とがそれを可能にさせたのでしょう。
気骨のある人物との邂逅でした。
その薫陶を受けたお弟子さんたちがこれからも医療界で活躍されることでしょう。
天晴れです。ご冥福をお祈りいたします。

みんなで みんなが 健康になる 【研究所(Lab)】所長
秋山 和宏

「百夜百人「“わかりません”と“なぜなら”が 明日の自分の原動力になってくる」」への1件のフィードバック

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