本書は副題にもある通り、
「買わない暮らしのつくり方」を
7つのステップに分けて解説しています。
その方法と事例がふんだんに紹介されています。

  1. ゆずる
  2. 受け取る
  3. リユース&リフューズ
  4. 考える
  5. つくる&なおす
  6. 分かち合う&貸す&借りる
  7. 感謝する

もちろん、食べ物などの生活必需品を買っていけない訳ではありません。
何事にも例外はあるものです。

全く背景の違う下記の女性著者同士の出会いから
二人がギフトエコノミーに至った経緯、実体験が語られます。
気づきの連続です。

Liesl Clark リーズル・クラーク
米ワシントン州在住。映像作家・ディレクターとして、「ナショナルジオグラフィック」や「NOVA」、BBCなどの科学番組やドキュメンタリーを数多く制作。エミー賞をはじめ、受賞歴多数。その傍ら、ネパールの山村の子どもたちのために私設図書館をつくるなど、現地の子どもたちの識字力向上にも取り組む。パートナーの登山家ピート・アサンズ、ふたりの子どもたちとともに、ヒマラヤをはじめとする世界各地を旅する。

Rebecca Rockefeller レベッカ・ロックフェラー
米ワシントン州在住。ソーシャルメディアコンサルタント。市民運動、非営利団体主宰、文筆業などを経て、リーズル・クラークとともに「買わない暮らしプロジェクト」を立ち上げ、ギフトエコノミーの一大ムーブメントを巻き起こす。ふたりの娘とともに、鶏を飼い、野菜を育て、花を植え、島暮らしをたのしんでいる。エバーグリーン州立大学卒業。

ギフトエコノミーを理解する上で大切なのは、
シェアリングエコノミーとの違いです。
両者は「個人所有のものを分かち合う」という共通点があるために
混同して使われることがあります。
しかし、「シェアリングエコノミー」(=共有経済/共用経済)は
主として民泊やシェアオフィス、ライドシェアなど、
対価を伴うビジネスの形態を意味しています。
一方、「ギフトエコノミー」(=贈与経済)は、
お金による売買や取引ではなく、
無償での「贈与」や「分かち合い」によって、
モノやサービスが循環する仕組みを指しています。

ギフトエコノミーの精神は、
「人から受けた親切を、直接その人に返すのではなく、
また別の人への新しい親切としてつないでいく」という
「ペイフォワード(pay it forward)」(=恩送り)を
イメージすると良いと説明されています。
なるほどです。

この手のハウツー本に関心のない方のために(実は私も)、
私が本書で最も印象に残ったものを紹介します。
リーズルの話」というタイトルのコラムです(P.44-45)。
ネパールのサムゾンという小さな村でのエピソードです。

リーズルの家族はその村で発掘調査をさせてもらうお礼として
村の人たちにあたたかい服をプレゼントすることにしていました。
アメリカで集めた様々な種類の洋服がたくさんありました。
それらの服を用途別の種類に分けていると、
村中の人たちが集まってきて、作業を手伝ってくれました。

そこへ村のリーダーである40代の女性が近寄ってきて、じっと覗き込み、丁寧にこう言ったのです。

「村には17の家族があるので、服は17の山に均等に分けてください。すべての山に大人の服と子どもの服を同じ量入れます」。

しかし、リーズルは17の家族構成に合わせて、
ある家族にはベビー服を除いて大人用の服を足そうとしました。
68歳の一人暮らしの女性がいることをリーズルは知っていたからです。
するとリーダーの女性がやり直しを指示して、こう言ったのです。

「お年寄りにも子どもの服を渡せば、お年寄りはそれをゆずることができます。すべての家族が同じものを受け取ることで、みんなが「ゆずる側」と「もらう側」に立つことができる。それによって村は健全に保たれます」。

あるモノを必要とする別の家族に「あげる」ために、
一度「所有する」ことが大切なのです。
自分には何が不要か、というのは一人ひとり違います。
その違いがあるからこそ、所有物を他者に手渡すという役割が発生するのです。

先の68歳の一人暮らしの女性に届けられた服の袋の中に
ベビー服が入っていたとしましょう。
すると、「お隣の赤ちゃんにきっと似合うだろう」などと思い浮かべるかもしれません。
実際にプレゼントすることで、新たな関係性が生まれます。
戴く方も明らかにその女性にベビー服は要らないと分かるので、
遠慮なく戴けるのです。

「それによって村は健全に保たれます」のくだりは
正に箴言です。

こうした智恵がこれからの社会には必要なのでしょう。
「みんながみんなで健康になる」ために
「みんながみんなで幸せになる」ために、
ギフトエコノミーを広めていきたいです。

(2021年10月13日)

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