前回SDHで紹介したマイケル・マーモット先生は
2010年に「マーモット・レビュー(Marmot Review)」と呼ばれるレポートを出しています。
Fair Society Healthy Lives:「公正な社会と健康的な人生」というタイトルです。
「社会の不平等からくる健康の不平等は避けられないものではなく、
十分に軽減しうるものである」と主張しています。

人間が社会を営んでいる以上、一人では生きていません。
そして集団を作ると格差というのはどうしても避けられません。
そうした社会格差はある程度避けられないとしても、
それが実際の健康格差を生じることは軽減することはできるのではないか、
そのように政治をするのが正しいのではないかということです。
社会格差はSDHを通じて健康格差をもたらします。
失業、薬物、社会の結びつきの不足、劣悪な労働態様、貧困などが、
社会格差を実際の健康格差に広げる要因になるのです。

そんなSDHやマイケル・マーモット先生のことを調べていくうちに
HPHの概念にたどり着きました。
Health Promoting Hospitals & Health Servicesの略で、
ヘルスプロモーションを組織理念として活動する病院や施設を指します。
今やその理念を共有する施設が世界中に広がって、
その数は1000を超えているそうです。
私が目標とする病院:コミュニティホスピタルはまさにそういうもので、
既に具体的な取り組みがあることを初めて知りました。
同志を見つけた感覚です。
HPNの歴史や具体的な取り組みについては
日本HPHネットワークのホームページをご覧ください。
https://www.hphnet.jp/about/greeting.html

<ヘルスプロモーションの定義>

  • 「人々が自らの健康をコントロールし、改善することができるようにするプロセスである」 (1986年、オタワ憲章)
  • 「人々が自らの健康とその決定要因をコントロールする能力を高め、それによって自らの健康を改善できるようにするプロセスである。」
  • 重大な健康の決定要因として、国内外の格差拡大、都市化、地球規模の環境変化などを指摘 (2005年、バンコク憲章)
  • グローバリズムの進展、格差が広がる中で、SDH(健康の社会的決定要因)への介入が求められる。

こうしたHPHやコミュニティホスピタルを考える上で重要なのは
公共という視点です。
公立ではなく公共であるべきです。
両者の違いについては第158話をご覧ください。
http://tunagaru.org/akiyama-essay/158

とてもユニークだと思ったのが
HPHの対象(ステークホルダー)を3者にしている点です。
第1は「患者」です。
これは当たり前ですね。どの医療施設でも同じです。
良質な医療を届けるということ
特に社会的に困難な人たちにきちんと医療を届けることを重視しています。
入院中から退院後までを考えながら、健康問題に対するアプローチをしていきます。

第2の対象は「地域住民」です。
普段あまり病院にかかっていない人たちも含まれます。
社会全体を健康にするには地域の人たちをどう巻き込んでいけばいいのかを考え、
実践してきます。
私がイメージするコミュニティホスピタルはここ留まりでした。

しかし、HPHは三つ目の対象を掲げています。
それは「スタッフ」です。
医療機関で働いているスタッフこそ
ヘルスプロモーションが必要であるということです。
なるほどです。この視点は思いつきませんでした。
そう言えば、在宅緩和ケア医の小澤竹俊先生が同じことを指摘されていました(流石です)。
https://www.youtube.com/watch?v=zVtIRBa2pdY

ヘルスプロモーションの定義上、市民の能動的参加が必須となります。
それを公共圏としてのHPH上に上手に設計することが大切です。
私の持論である「チーム医療は市民参加型医療に進化する」ことが重要になるでしょう。
超高齢社会の高騰する社会保障費対策上も重要な仕組みとなるはずです。
新しい時代に相応しいシステムを模索していかなければなりません。

HPHの取り組みの中に
未来のコミュニティホスピタルのヒントがたくさん散りばめられているようです。
学びを深め、構想を練り上げたいと思います。

(2022年4月6日 )

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