SDHをご存知でしょうか?
私も最近知ったのですが、Social Determinants of Healthの略語で
健康に影響を及ぼす社会的要因のことです。
第103話で健康格差の問題を取り上げましたが、
「自己責任」論が主流で社会的要因がこれまで見過ごされてきた感がありました。
http://tunagaru.org/akiyama-essay/103

近藤克則 千葉大学教授によれば、
「人が病むのではなく、地域や環境(人間関係を含む)が病んでいるから
結果として病人が生まれる」

のです。

人間の健康状態には,その人個人の問題以外にも社会的な背景が影響している割合が大きいことが分かってきたのです。
この社会的要因が発見されたきっかけを紹介します。

ロンドンの公務員が多く住んでいる地域で健康状態をフォローしたデータがあります。公務員というと、特に裕福ではないけれど貧困でもなく、だいたいみんなが健康保険に加入しているという、比較的均一な集団です。その中の冠動脈死の原因を調査すると、喫煙や血圧、コレステロールなどのリスクファクターを除外しても説明できない要因があったのです。しかもそれが職位によって3倍から最大4倍と、大きな差があることがわかりました。そこから社会経済的な状態、ソシオ・エコノミックステイタス(Socio-economic Status)がこの余剰死亡に関係しているのではないかということが発見されました。1970年代の話です。データでは管理職の健康状態が最もよく、その人たちの冠動脈の死亡率を1とすると、プロフェッショナル、専門職は2倍ぐらい、普通の事務職は3倍、その他のメッセンジャーや清掃職員、運転手といった職種の人々は4倍になります。確かにこういった職位の人は喫煙やコレステロールレベルも高いのですが、それを除外しても説明がつかない。こういうところから、社会経済的な状態が健康に影響を及ぼしているのだろうと考えられました。

その後、様々な検証がなされ
「社会的な要因により健康が影響を受けることは確かな事実である」とされ、
20世紀の公衆衛生学上の最大の発見と位置づけられるようになりました。
この分野のパイオニアは、サー・マイケル・マーモット博士です。

Sir Michael Marmot
世界医師会(World Medical Association: WMA)会長
University College of London(UCL)疫学教授

2005 年、WHO の健康の社会的決定要因(Social Determinants of Health: SDH)委員会議長に就任。2008 年 8 月、同委員会報告書 ‟Closing the Gap in a Generation” を公表し、不健康の社会的要因を取り上げ「原因の背景となる原因」に取り組むために必要なエビデンスの収集を支援した。2008 年 11 月、イギリス政府の要請により健康の不平等調査委員会議長として健康の不平等に対する政策策定に努め、‟Fair Society, Healthy Lives’in February 2010”をとりまとめた。

とても立派な方のようです。
その正義感ぶりが表情に出ていますね。
実は2016年に日本医師会の招聘で講演をされています。
記事がありますのでご覧ください。
https://www.med.or.jp/nichiionline/article/004708.html
医療従事者がSDHに関わることの重要性を強調されています。
全く同感です。
その業績を見たときに
第96話、148話で紹介した
アマルティア・セン博士の「ケイパビリティ」を思い出しました。
http://tunagaru.org/akiyama-essay/96
http://tunagaru.org/akiyama-essay/148

さて、コロナ禍によって人々の健康度が低下していることは
医療人なら身近に感じているはずです。
それは個々人のレベルでのフレイル、サルコペニアだけではなく、
地域、国レベルでの健康度低下、健康格差をも生み出しているようです。
社会保障費の増大はこの国の将来を危ぶむ大問題です。
近い将来、日本の時限爆弾となりかねません。

フレイルには最近、身体的や精神的のみならず社会的フレイル、
さらにはオーラル・フレイル、スキン・フレイルなど
さまざまなフレイル現象が指摘されています。
そこで健康面における国自体の脆弱化をナショナル・フレイルと名付けたいと思います。
国土強靭化(ナショナル・レジリエンスともいいます)には
2021年度からの5年間に15兆円の予算が当てられています。


 防災や老朽化した道路や橋脚の補修など
国民生活のハード面だけではなく、
国民の幸福度に直結するソフト面における対策も蔑ろにしてはいけないでしょう。
健康問題も対象にすべきです。
特に超高齢社会においてはナショナル・フレイル対策も必須であると考えます。

個人のフレイル、サルコペニアの問題は
超高齢社会となった日本の社会的要因が大きく影響していると思います。
ナショナル・フレイル問題も然りです。
SDHに話を戻しますと、
個人を対象としたフレイル対策では不十分で、
国を挙げての対策が必要です。
今こそ、医学は経世済民(けいせいさいみん)の学問に進化しなければなりません。
先のマーモット博士の提言にもある通り
医療従事者が率先してSDH対策を始めるべきでしょう。
社会医療人の出番です。
プレゼン動画を特別に公開しちゃいます!

社会派の医療人たちよ
一緒に社会を変えていきましょう!! 

(2022年3月30日) 

「280. SDHとナショナル・フレイル」への1件のフィードバック

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