第87話で写真家 星野道夫さんを紹介しました。
http://tunagaru.org/akiyama-essay/87
『旅をする木』の一節を再び取り上げてみます。

結果が,最初の思惑通りにならなくても,
そこで過ごした時間は確実に存在する。
そして最後に意味をもつのは,
結果ではなく,
過ごしてしまった,かけがえのないその時間である。

私はこの一節がとても好きです。
人生の成功や幸福感における大切な考え方を教えてくれているような気がします。
そんなことを考えていたら、アリストテレスのエネルゲイアが思い浮かびました。
という訳で、今回はエネルゲイアについて考えてみましょう。

表紙の書籍『エネルゲイア』は絶版になっているようで
私も持ってはいません。
ネットでちょっと調べてみました。
エネルゲイア(Energeia現実態)はアリストテレスによって提唱された哲学用語です。
アリストテレスは、運動をエネルゲイアとキーネーシスの2つに分類しました。
前者のエネルゲイアは、今なしつつあるものが
そのままで価値や意味を持つ運動のことを指します。
段階や過程に重きを置くやり方です。
「今、この瞬間を大切に生きる」といえばもっと分かりやすいかもしれません。
ダンスが好例として挙げられます。
ダンスはダンスをしている最中が楽しく意味があるのであって、
ダンスを終えることに価値や意味があるわけではありません。

一方、後者のキーネーシス(Kinesis)は、
過程よりも結果を重視する運動(考え方や活動)です。
始点と終点があるような運動で移動や達成が目的であるものです。
このようなものは、出来るだけ効率的に速やかに成し遂げられるのが
価値あるものとされます。

例えば、東京から京都までの旅行を考えてみた場合、
キーネーシス的には新幹線で移動するのが正解で、
エネルゲイア的には途中下車して
各地の風景を楽しんだり、
美味しいものを食べたりしながら移動するのが正解と言えるでしょう。

現代人は、人生の成功をキーネーシス的に捉え過ぎているように思います。
地位や名声といった到達点や結果に価値を置く考え方です。
勝者を目指す思考ともいえるでしょう。
しかし、当たり前ですが、勝者は限られています。
これでは、多くの人が人生の目標に達することができず敗者となってしまいます。
キーネーシス的生き方では、
敗者の人生は失敗であり、そのプロセス全てが価値を失ってしまいます。
私たちの人生の価値は、そうした勝敗によって決まるものではないと思います。
エネルゲイア的にそのプロセス自体を楽しむことこそ重要ではないでしょうか?

幸せは過去や未来に求めるべきではないでしょう。
今、この瞬間を精一杯生き切る中で見出されるのだと思います。
過去の幸せに留まっていては勿体無いです。
また、未来の幸せのために今を犠牲にしてはいけません。
キーネーシスからエネルゲイアへ生き方をシフトしていきましょう。

さすがはアリストテレス(紀元前384-322)、素晴らしいです。
しかし、日本でも道元 禅師(1200-1253)の「而今(にこん)」にも
同じ思想を見ることができます。

時代や洋の東西を問わず、真理は一つなのでしょう。

今、この瞬間を生き切りましょう!!

(2022年5月4日) 

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