297.『経営者が語るべき「言霊」とは何か?』書評

10月にプレゼンテーション・イベントを開催するにあたり
本棚から久しぶりにある本を取り出してみました。
『経営者が語るべき「言霊」とは何か?』です。

このメルマガではお馴染みの田坂広志氏 51歳時の著作です。
最初の数ページを読んだだけでも非凡さが伺えます。
副題には「リーダーの「言葉の力」が組織を変える」とあり、
帯には「トップが語る一言で組織は必ず甦る」と書かれています。
言葉の力を最大限に活かすための智慧が書かれています。
タイトルにある「言霊(ことだま)」は、「魂が宿る」言葉で、
「力に満ちた言葉」とも言い換えられるでしょう。

冒頭で、「ビジョン」「戦略」「予測」「計画」「志」を語るのが、
経営者やリーダーの役割だと断言します。
上記を作成する時には人の手や智慧を借りるのも良いでしょう。
しかし、それを組織員や社会に対して語るのは、
リーダーの究極の役割だと言い切ります。
その時、伝わらない「言葉」であってはならないのです。
「言霊」「力に満ちた言葉」でなければならないのです。

今の世の中を見渡してみて(勿論、私も含めてですが)、
何と「伝わらない言葉」が溢れていることでしょう。
お決まりの原稿を読み上げるだけの無味乾燥なあいさつ、場を繕うためだけの冗長な話、
借り物の言葉の集合体、等々。
腹落ちするようなメッセージには滅多にお目にかかれません。
それだけに、真剣勝負のメッセージを語るプレゼン・イベントが
今の社会に必要なのだと信じています。

では、どうしたら「力に満ちた言葉(言霊)」を語ることができるのでしょう?
以下、本書からの学びを列記してみます。
「言葉」「ビジョン」「戦略」「理念」「予測」「計画」「意思決定」「志」を語る際のそれぞれのコツを掴み取って下さい。

「目標」から「ビジョン」へ
本文中の「カオスの縁」の理が理解できれば、両者の違いが明確になるはずです。「カオスの縁」とは、「秩序」と「混沌」の間のちょうど良い「頃合」のところになります。そこに生命力が生まれ、創発の場となります。「ビジョン」には、人々の関心やワクワク感が寄せられなければなりません。

・「戦略立案」から「戦略創発」へ
それは「山登り」の発想から「波乗り」の発想に移行することです。
企画室で立てられた戦略はすぐに古びてしまいます。時代の変化が加速しているからです。現場から新しい戦略が創発されなければならないのです。

「一の矢」が外れても「二の矢」「三の矢」を放ち続ける「粘り腰」
「一の的」を外しても「二の的」「三の的」を射抜こうとする「したたかさ」

「抽象的な理念」から「具体的な物語」「個性的な物語」へ
素晴らしい「理念」のもとには、生きいきとした面白いエピソード、耳を傾けたくなるような魅力的な物語が生み出されるのだと思います。

「客観的な予測」から「主観的な予言」「主体的な意志」へ
「予言の自己実現」:傍観者として未来を予測するのではなく、主体者として未来を創造していくこと
「小さな変化が大きな変動を生み出す」という性質:非線形、複雑系の科学 を理解し、利活用すること
ある「ビジョン」を「主体的な意志」を持って語ることができれば、それは「主体的な予言」となり、力強い「言霊」となる。

「計画」から「企画」「たくらみ」へ 

「意志決定」から「決断」へ
迷いを断つ。「稟議」と「根回し」による全員一致の意思決定の危うさ。
「自分の人生を、自分自身で主体的に背負っている」という意味での緊張感

「野心」から「志」へ
志とは、己一代では成し遂げ得ぬことを、次の世代へ託する祈り
志を伝えることの大切さを再認識しました。

これらの智慧は、あなたが経営者やリーダーでなかったとしても
心得ておくべきでしょう。
著者は「腹で語る」と表現したりしています。
「腹を据えて語る」ことが大切なのです。
自分の語っていることを、本気で信じているかが問われているのです。

例によって、今回も書評らしからぬ文章になってしまいました。

最後に、足掛け14年のプレゼン・イベントの主催者として申し上げます。
私の本書からの学びはこの一言に尽きます。

 「何を語るか」ではない。
 「誰が語るか」である。

その誰かになるための「胆力」を宿したいものです。
近頃、切にそう思います…。

(2022年7月27日 )

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