今年は1月10日が成人の日でした。
2022年1月1日時点の20歳の新成人は
前年比4万人減の120万人と過去最少だったようです(総務省12月31日発表)。
男性は61万人、女性は59万人でした。
総人口に占める割合は0.96%で
12年連続で1%を下回っているそうです。

さて、これまでこのメルマガではたくさんの書評を書いてきましたが
成人の日にちなんで、新成人への推薦書を考えてみました。
中学生には『後世への最大遺物』がお薦めです。
第264話をご参照ください。

ところで、2022年4月から成年年齢が18歳に「引き下げ」になります。
という訳で、18-20歳の人への推薦書を挙げたいと思います。
表題にもある通り、ズバリ『修身教授録』一択です。
著者は知る人ぞ知る、「国民教育の師父」森 信三 氏です。
その生涯を知りたい方は「致知出版社」のサイトをご覧ください。

https://www.chichi.co.jp/info/anthropology/hero/2018/%E6%A3%AE%E4%BF%A1%E4%B8%89/#

本書は、著者が大阪天王寺師範学校(現・大阪教育大学)で教鞭を執っていた時期、
すなわち、昭和12年、13年になされた「修身」の講義録です。
授業の相手は小学校教師を目指す18歳の男子生徒たちです。
京都大学哲学科時代、西田幾多郎 教授に学び、
その学びを国民教育の場へもたらそうと決心した一流の人物による渾身の授業です。
新成人への推薦書としてこれ以上のものは無いでしょう。
当時の検定教科書を用いず、
内容をクラスの生徒全員に口述筆記させるという独自の授業形態が採られました。
そのため記録が残り、後世の私たちも読むことが出来るのです(実に有り難い!)。

「教育は国家百年の計であり、教職は聖職である」といいますが、
そのことを信じ、実践された方です。
著者にとって小学校教師は、国民教育者です。
本書を手に取って読まれれば
その視点の鋭さ、視野の遠大さ、心情の深さを感じられるはずです。
さらに国民教育への情熱にも驚嘆されるでしょう。
書物だけでもこれだけの熱量を有しているのですから、
直接、授業を受けた生徒は心に火をつけられたはずです。
週1回、2年分の授業、79話が収録されています。

「人生二度なし」「独りを慎む」「その人の生前における真実の深さに比例して、その人の精神は死後にも残る」等々、数々の名言が本書にはちりばめられています。
「立志」の思想も重要です。
そんな中、私が本書から最も影響を受けた授業を紹介します。
第2部-5の「一つの目標」です(P.314-319)。

そこで私は、諸君たちに対して、ここに一つの中間目標を掲げてみましょう。それらは諸君らは一つ四十になったら、必ず一冊の本を書く覚悟を、今日からしておいて戴きたいのです。・・・ とにかく諸君らは、四十になったら一冊本を書くんです。そして、その決心を、今日からしっかりと打ち立てるのがよいと思うのです。

遅ればせながら、私は44歳で最初の単著を出版しました。

http://tunagaru.org/akiyama-essay/37

18歳のときにこの書に出会い、
この中間目標を心に刻んでいたなら、
もう少し違った生き方が出来たかもしれません。
それでも大人になってから本書に触れたので、
数年遅れで達成できました(感謝です)。

一冊の本への決意は、有意の新成人にはかなり有効なはずです。
良き中間目標となるに違いなく、その後の人生を良き方向に導くでしょう。

さて、私にも心に火を灯してくださった先生がいます。
中学時代の「技術・家庭」科の「技術」分野の先生です。
学年主任もされるような先生でしたが、私の担任ではありませんでした。
週1時間だけの授業というのは森氏と同じです。
短い時間でしたが私には充分でした。

その最初の授業でのことでした。
一般的な技術科の授業が終わった後に、先生が一言 付け加えられました。
「この最初の授業で、素晴らしい態度で聴いていた生徒が二人いる」
全く予想していませんでしたが、
その一人が私で、
先生は私の頭を撫でてくださいました。
先生の立ち振る舞いに、どこか徳を感じていた私は
今でいうところの「全集中」で最初から最後まで聴き入っていたのでした。
そして、「将来は有望である」というようなことを仰られました。

その一言がどれだけ私に深い自信を与え、
私を鼓舞させたことか…。
完全に心に、魂に火をつけられました。
先生は言葉の力を熟知していて
それを私に授けたのです。
これこそ本物の教師の使命でしょう。

その先生が『修身教授録』を読んでいたかは分かりません。
しかし、少なくとも国民教育と同じようなことを意識されていたと思います。
本当に立派な先生でした。

後年、某新聞社から教育関連の大きな賞が授与されたことを知りました。
そのときの私は「そんなことは、とっくに分かっていたさ」と得意げでした。
彼が普通の教師でないことは、私の中では明らかでしたから…。

私たちは天の配剤によって
素晴らしい先生たちに出会ってきたのではないでしょうか。
ただ、気づけないことが多いのも事実です。
また、知識偏重の教育がもてはやされる今、
教育の本質が見失われているように感じます。
極論を申し上げれば、
「教育とは魂に火をつけること」なのだと思います。

森氏の視点、視野、心情、情熱を本書から学び取れれば、
私たちが出会ってきた先生方の価値が再認識できるのではないかと思います。

そして私たちは、
教師であろうとなかろうと
周囲に対して、
国民教育者的な生き方をすべきであろうと思うのであります(←森氏風)。

(2022年1月12日)

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